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季刊誌「せおと」-fileNo.47-「春が来たよ。」 そのことばに心までポカポカしてくるのはなぜだろう。

fileNo.47「春が来たよ。」 そのことばに心までポカポカしてくるのはなぜだろう。

『春が来た』 せおとの原稿を書かねばと思い立つのは発行日の前々月の中頃である。もうそろそろ手をつけなければと気になった2月19日東側の自木蓮が一輪咲いていた。前庭の自梅は終りに近く南隅のスモモも自く色づいている。

この時節春の兆(きざし)があるとはいいながら、朝にはまっ白な霜が降りて冬そのものだ。発行日の4月1日頃には桜(ソメイヨシノ)が咲き始めるであろうから、この季節の景色の変化は激しい。もう芽を吹いている木もあって目に見えぬ地中では根が活発に動いているのだろう。

時々思うのだが木の芽が出る、花が咲くのを見て人は春が来たと言うけれども、春が来たから草木が芽を出し花が咲くのだ。春そのものは目に見えず手で掴むこともできない。新芽や花、風の暖かさを機緑(きえん)として感じられるものなのである。

ずい分音のことだが、こんな笑い話があった。小学一年生に「雪が融けたら何になるか」と聞いたという。ある児は「水になる」、もう一人は「春になる」と答えた。先生は水になるを正解とし、春になるをバツとした。春になるにもマルをあげようよ!とその頃仲間と笑い合った記憶がある。冗談ぽく名づければ科学的答えと詩的答えと言っていいのだが、この齢になっても、いやこの齢になったからか実用一点張りの会話でなく詩的な会話を楽しみたい思いがある。

ことばには実用語、概念語(学問用語)、詩的言語(宗教用語)と三つの層があるという。実用語とは社会生活(政治。経済)を円滑に送るための日常会話を指すらしい。スーパーで用を足す言葉、あれください、これください、いくらですか等である。日常生活の語りが実用のみの、つまり商談や作業の手順のやり取りばかりだと味気なさや空しさを感じるのはなぜなのだろうか。

「春が来たようだね」と言えて「ナンカ心モポカポカスルネ」と返ってくる何の目的もないような会話がこよなく有り難い時がある。

何の脈絡もなく思い出すが、スマホも携帯電話も無かった頃(つまり私が若かった頃)人と人が出会う(つまりデート)は時としてややこしかった。何日の何時何分、本屋さんの前と打ち合せておいても、どちらかが何かの都合で遅れると何時間も待たされたり、会えずじまいなんてことも起り得たのである。今はどうだろう、どこでもすぐに連絡がとれるし、どこに居るか確認できる機能さえある。人と人との物理的距離は非常に近くなった気がする。世の中とてつもなく便利になったけど豊かになったのだろうか。人とのつながりやことばのやり取りもさまざまな道具を使って増えているように見えるが豊かになったのだろうか。この人に、この子に、この親に出遇(であ)えてよかった。人間(ひと)に生れてほんとうによかったと感動するような、そんな思いの豊かさに出遇えているのだろうか。

饒舌(じょうぜつ)は限りなく続くが、世の中明るくなった。明るくなって世界が見えるようになった。茶の間に居て世界が見える、北朝鮮からミサイルが飛んだ。金正男が殺された。韓国の朴大統領が罷免された。トランプ米大統領は相変わらず不人気だと人の情報は豊かになって外のことは何でも知っている。

人は豊かになったのだろうか?外ばかりが見えるようになって、さまざまなことを比べるようになった。比べて足りないものばかりが気になっていないだろうか。容貌、才能、財力、足りないものを数えて落ち込んでいないか。人間は有るものが見えず、無いものが見えるおかしな生き物だ。

人間の存在の三条件は心と身体とことばだと聞くが、この心もこの身体も自分が意志し、意図して作ったものではない。自分のいのちなどと称しているが、人間(ひと)に生れるのに自分の意志など働いていない。全ては頂き物だ。頂いた心の内的宇宙は底なしの深さなのだ。そこに量ではない質の豊かさがある。

「井の中の蛙 大海を知らず されど空の青さを知る」という。大海という外の大きさに目が眩み、空の青さという自分の内なる深さ豊かさを見失っていないだろか。

ことばもまた豊かさに寄与する。いや、ことばこそが内的宇宙の深さ豊かさなのである。記号化した使い捨ての日常のことばではなく、人の心に染み込むような純度の高いことばこそが豊かさなのだ。

「春が来たよ」は単なるあいさつことばではなく、自分や人の心を和らげる豊かな詩的言語なのだ。

迷いたる 如くに花の 中にをり  あきら

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