『貧者ゴロは本来「貧乏人」つまり経済的弱者を意味するのであろうが、わが家では精神的貧しさ・心の貧しさを意味する。戦争の恐怖を利用して声高に言い募り、人の弱みにつけ込むやり口が貧者ゴロなのである。』

　

この頃わが家では「貧者（ひんじゃ）ゴロ」という言葉が流行っている。まっとうな鹿児島弁とは思えない。なぜなら「貧者の一燈」という言葉があるのだから。

貧者は置くとしても「ゴロ」はなんだろうか。手元の方言辞典にはゴロは卑下語とある。卑下語だとすると自分を卑しめて言うのであるから「私は貧者ゴロだ」とは語れても「あいつは貧者ゴロだ」とは言えない筈である。

その手の本によれば卑下語は自分を低くするという意味であるが、他者を卑しめる語り口に転じた可能性もあるとある。

幼少の頃から聴き慣れた用例は「欲ッゴロ」「朝寝ゴロ」「嘘ヒイゴロ」「ダシゴロ 【牛車引き】」「ワラッゴロ 【稲わらを叩く道具】」等がある。

貧者ゴロは本来「貧乏人」つまり経済的弱者を意味するのであろうが、わが家では精神的貧しさ・心の貧しさを意味する。流行っているとは言っても我々夫婦と住職とのやり取りである。住職が持ち込んだ言葉だ。

使用例は「アンワロ (アンヤッ)モ　テゲナ　ヒンジャゴロ ジャツド！」である。仏の道を説く住職が語れば物議を醸（かも）す気がしないでもない。若者向けに少し品よく翻訳すれば「あの人も相当心が貧しいですな！」となる。

我々【三人だけだけど】が貧者ゴロ呼ばわりするのは自分の失敗を他人のせいにしたり言い繕って正当化したり嘘やごまかしで自分の非を認めようとしない人のことである。

比較的政治家に多い【立派な方もおられますが】。A元総理や最近では知床遊覧船の社長さんあたりが好例である。

知床といえば、少しばかりの横道と自慢話だけど三年位前我々夫婦は知床の遊覧船に乗ったのである。もつとも「KAZU１」だったかどうかは確かではない。子達が金を出し合い親の金婚式のお祝いにと北海道旅行をプレゼントしてくれたのだ。なんとも立派な子達である(笑)。その二日目が知床界隈であった。それが故に今回の沈没事故は身近かに思われる。

本題に戻る。

聖書の言葉に「心貧しき者は幸いである」とあるらしいが、そこに語られる心の貧しさは多分我々の貧者ゴロとは異なるであろうことをお断りしておきたい。

ロシア軍がウクライナに軍事侵攻してすでに4ヶ月が経過した。戦場となっている地域の人たちは実に気の毒である。プーチン大統領はこのことを軍事侵攻とも戦争とも呼ばず「特別軍事作戦」と称しているが未だ戦闘が収まる気配はない。彼のウクライナ侵攻にはＮＡＴＯ加盟の阻止にあったようだが侵攻によって隣国フィンランド、スウェーデンの両国を加盟申請へと追いやったのはなんとも皮肉である。それをまた核で脅すプーチン大統領のなんと貧者ゴロであることか。

そもそも人【他国】を武力や核でもって脅し都合のいいようにつくり換え従わせようとする、そのことが貧者ゴロでなくてなんであろう。核のついでに言えばこのウクライナ騒動に乗じて「核共有化」を言い出す政治家達の心の貧しさは悲しい。

戦争の恐怖を利用して声高に言い募り、人の弱みにつけ込むやり口が貧者ゴロなのである。こういう時にこそ核【武力】でない解決方法を探ろうと言えないものか。

国の安全保障が叫ばれて国民【私】の安全がないがしろにされてはたまらない。

ここまで読まされた人がそろそろ「人を貧者ゴロ呼ばわりするお前さん達が貧者ゴロではないか」と思い始めておられるのではなかろうか。

その通りである。自制も自覚もなしに他人を貧者ゴ口と罵しるのであれば、それこそ貧者ゴロの謗（そし）りを免れない。我々にも少しは自覚があって発言の冒頭で「貧者ゴロ的発言ですが」とか「貧者ゴロ的発想だけど」とかつけ加えるのである。貧者ゴロ呼ばわりする貧者ゴロの自覚はいくらかあるのである(笑)。

人間は邪悪な生き物である。仏教では罪悪深重（ざいあくじんじゅう）・煩悩熾盛（ぼんのうしじょう）の衆上（しゅじょう）という。しかし人類は未だ進化の途上にあり言葉を授けられた自己陶冶（とうや）できる生き物である。

言葉で国【人】は守れないと人は笑う。そうかもしれない。けれど人が自己変革していけるのは「言葉の力」である。世間【社会】の言葉ではなく自己の内なる宇宙から湧き出る本当の言葉、仏語（ぶつご）の力である。ウクライナ・世界に平和を！と言葉で叫ぶ。

令和４年夏季号より