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季刊誌「せおと」-fileNo.040-人はなぜ道に迷うのだろうか? 人生の目的を見失ったから・・・?

fileNo.040人はなぜ道に迷うのだろうか? 人生の目的を見失ったから・・・?

『帰去来(ききょらい)の旅』 間もなく終戦(敗戦)記念日が訪れる。今年は戦後70年という節目の年とかで新聞やテレビ等で特集が組まれたりしている。

また、総理大臣談話がどうのこうのと国内外からいろいろ注文がつけられて巷ちまたは賑わっている。

昭和17年生れの私に戦争の記憶はない。けれども小学校1年(昭和24年入学)の登下校時、飛行機の爆音が聞こえると物陰に身を隠していたことは覚えている。

あの頃(敗戦から主権回復まで)は貧しかったと当時の大人達は語ってきた。私には貧しさの記憶はない。こう書けば分限者(ぶげんしゃ)の家だったのだろうと誤解されそうだがそうではない。今も昔も子供にとって、そこそこ優しい父と母がいて少ない食糧を分ち合えれば平和で幸福なのだ。とは言ってもやっぱり空腹だったのだろう。春から夏にかけては野いちご・桑の実・グミ・生梅・やまもも・イヌビワ、秋はアケビ・むべ・鬼グルミ・椎の実・秋グミ・サルナシはもちろん他人(ひとん)家(ち)の梨・柿・みかんは採とってではなく、盗とって食べた。戦後、南方の戦地から戻った元兵士が「人以外は何でも喰った。」という話しがあったが、それに近い暮らし向きであった。

 この原稿を書き始めた6月初旬、南九州地方の梅雨入りが発表になった。それで思い出してしまったが、小学校入学すぐの梅雨の頃の登下校は最悪だった。まず我が家には笠(かさ)はあったが、傘(かさ)がなかったようだ。その上長靴はおろか靴がなく、父か祖父が作った草履(ぞうり)である。道路はあちこちに水溜りのある未舗装のぬかる道で学校まで3㎞程あった。草履で泥道を歩かれた経験のある方はお分りと思うが、背中はおろか頭のてっぺんまで泥が跳ね上がって泥だらけになる。これを在所ではサバを釣るとかサバを取るとか呼んだ。笠も孟宗竹の皮で編んだものでタカンバッチョとかタカランバッチョと言い、頭に被るもので学校へ行くというより田植えの格好である。ついでながら靴らしき物(?)が手に入るようになったのは小3になってからであった。

今年の春4月、5歳下の従妹いとこから手紙が届いた。50数年ぶりのことである。いや手紙のやり取りなんか1回もないのだから初めてのことと言うべきか。私の父の葬儀で会ったのが最後だと語っていたから50年以上会ってないことになる。私には多分(?)40人以上のいとこがいる。もちろん1回も会ったことない者もある。父には8人の兄弟姉妹あって、それぞれが世帯を持って子を成した。驚くべきことに男兄弟の長男以外は皆他家の養子となっている。我一族は貧しかったのだと今思う。あの頃在所の子ども達は中学校を卒業すると「金の卵」とか称されて都市部へ集団就職していくのは珍しいことではなかった。4歳下の妹も手紙の従妹もそうやって故郷を離れた。

その従妹の手紙に「故郷で暮らしたのは、僅か、15年!」とあったのには、あっ!と空を仰ぎたい心境であった。故郷を離れて50数年、さまざまな思いが胸を過よぎったであろう。私もまた然りである。父母といた故郷は懐かしい。

人生はよく旅にたとえられる。山あり谷ありとは言うけれども終着駅はどこなのか。旅は帰るところがあってこその旅である。帰るところのない旅は流浪流転だ。この50数年方々ほうぼう彷徨(さまよった)気もするし「いま、ここ」自分自身から一歩も離れなかった思いもある。「人生の目的」などという著名作家の作品もあるが、齢を重ねる毎に分らなくなる。社会に寄り添い経済的にもそこそこ豊かな生活をおくる、それだけでは埋まらない何かが残る。人生の目的と言えば、自分で掲げた目標で自分主体から抜け出せまい。自分主体のいのちには前後がなく自己完結してしまいこの世だけで終わってしまう。

「自分は何のためにこの人生にやってきたのか?」と言い換えると様相が変わる。いのちの主体が自分よりもっと大きい存在に移りはしないだろうか。私をこの世におくり込んだのは誰(何)なのか。

人が道に迷うのは目的地を見失うことだけではない。現在地(今の居所)がはっきりしなければ、また迷う。人生の目的などというから行き先を見失う。自分のいのちと所有権を持ち出すから今が見えなくなる。どうやら人は自分(人間)の力だけでは自分のことが分からないように出来ているらしい。人間を超えたものの力が必要なようだ。

人生は故郷を出て故郷に帰る旅なのではなかろうか。往く道が還る道である。

時ほと鳥とぎす 鳴き移りゆく 雨の中   あきら

平成27年夏季号より

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