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季刊誌「せおと」-fileNo.037-幾億の いのちの末に 生まれたる 二つのいのち そと並びけり

fileNo.037幾億の いのちの末に 生まれたる 二つのいのち そと並びけり

『「花子とアン」と鹿児島』 南日本新聞の文化欄に南九州文学の小径(こみち)というシリーズものがある。去る6月1日の記事は、薩摩川内市川内まごころ文学館学芸員財部智美さん執筆で「柳原白蓮と鹿児島」の見出しで「愛息の終焉の地を訪ねる」であった。

柳原白蓮(びゃくれん)は、現在放送中のNHKの連続ドラマ「花子とアン」の主人公村岡花子の腹心の友として登場している、仲間由紀恵演ずる葉山蓮子のモデルである。

その記事は『NHKのドラマの影響もあり歌人柳原白蓮への関心が高まっているようだ。白蓮は本名を燁あき子こといい、伯爵柳原前光まえみつを父に、大正天皇の生母愛子(あいこ)を叔母にもつ。東洋英和女学校に学んだのちに福岡の炭鉱王伊藤伝右衛門に嫁ぐが、結婚生活はうまくいかず、行き場のない思いを歌に託し、歌人白蓮として名が知られるようになった。終生の伴侶となった宮崎龍介との駆け落ちは「白蓮事件」として文壇史に残る。』で始まっている。〈注:結婚時炭鉱王は50歳白蓮は25歳〉

このドラマを視聴している人はご存知と思うが、彼女の生育歴の前半はもっと過酷である。生母は「りょう」といい、父親の妾めかけ(きつい表現だが150年位前のことでお許しあれ)であった。生後7日目で柳原家に引取られ父親の正妻・初子に次女として入籍される。その後間もなく東京品川の種物問屋に里子に出され(当時の華族社会の習慣だった)、学齢となった6歳で本家に戻り、初子に華族の娘として躾られた。9歳で子爵北小路家の養女となり、そこの子息と心ならずも13歳で結婚させられ女学校も中退、15歳で男子(功光)を出産している。その後、(いきさつは省略)功光を北小路家に残す条件で離婚して、20歳の時実家の柳原家に戻る。しかし、出戻りで本邸には入れてもらえず、初子の隠居所で幽閉同然の生活であったという。紆余曲折(うよきょくせつ)を経て23歳で東洋英和女学校に編入学して、そこで村岡花子と出遭であうのである。

今(6月9日現在)ドラマでは、蓮子は福岡で炭鉱王のもとにあり、花子は甲府の小学校の代用教員である。

後に駆け落ちする宮崎龍介との間には香織(かおり)という男子と蕗苳(ふき)という女子に恵まれる。その香織は、昭和19年12月早稲田大学在学中に学徒出陣して串木野の基地に赴任したが、翌20年8月11日爆撃を受けて戦死したとある。終戦のわずか4日前である。この知らせを聞いた白蓮は、香織の戦死を信じなかったものの、髪は突然真っ白になったという。

最初の記事に戻ると昭和32年2月9日、白蓮は急行「きりしま」で来鹿し、11日旧日吉町を、14日に旧大口市を訪問とある。記事では、戦時中、日吉町には米軍の吹上浜上陸に備えて護南部隊が駐留していた。学徒出陣した香織は、そこで塹壕(ざんごう)構築中、木の下敷きになって死亡した、と続く。同町城ノ下の現場の墓は、近所に住む谷山タカさんによって手厚く供養されており、その谷山タカさんを白蓮は訪ねた。没後13年間の供養のお礼であろうか、記事には「対面するや二人とも手を取り合い、しばらくは離れなかったそうだ。」とあり、対面時の写真も掲載されている。その頃には香織を想って詠まれたであろう歌の碑いしぶみが、いちき串木野市の長崎鼻にあるという。

右も海 左も海の 色蒼く 沖の小島に 想いはふかし

ここまで読んで頂くと香織に死亡説が二説あるのが分かると思うが、母親(白蓮)にすればどちらにしろ戦争で愛息を失った悲しさに変わりはなかったであろう。辛い時代であった。

私が以前から知っているたったひとつの白蓮の歌がある。

幾億いくおくの いのちの末に 生まれたる 二つのいのち そと並びけり

ずっと情熱的な恋の歌だと思っていた。

私達が存在するために、2人の親、4人の祖父母、8人の曽祖父母が必要である。30代遡さかのぼると10億人の祖先の数となる。まさに「幾億のいのち」である。そんな二人が出遭うのであるから「ただごと」ではない。だから恋の歌には違いない。違いないけれども、惚れたはれたの世界を通り抜けている。夫婦という形であろうと親子とういう形をとろうと、いのちといのちが出遭う不思議にたちすくむ思いがある。

この歌は、いのちの賛歌である。

平成26年夏季号より

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