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季刊誌「せおと」-fileNo.64-自分の感受性くらい

fileNo.64自分の感受性くらい

『駄目なことの一切を 時代のせいにはするな  わずかに光る尊厳の放棄 自分の感受性ぐらい 自分で守れ  ばかものよ 「ばか者よ!」と自分で自分を叱り飛ばしてすっくと立っていたいなあ、と思うけれどもなかなかである。』

五月十五日は我が街日置市の市長・市議会議員選挙の投票日であった。日置市は十六年前、日置郡伊集院町・東市来町・日吉町・吹上町が合併して発足した市である。

市長選挙は市発足以来の現職が引退を表明、その後継を名乗る元市幹部職員のA候補、それに異を唱える【諸説あります】元市議会議員のB候補、若さと対話を売りとするC候補の三人で告示前から賑やかであった。

市議会議員候補は地元【旧吹上町】から現職議員三人の内、一人は不出馬、二人は五期目を目指すベテラン議員、それに二人の新人が加わり激戦模様であった。さすがにベテラン議員には目立つ動きはなかったが、新人二人は告示の数ヶ月前から看板・のぼり旗を立て街宣車が走り回っていた。

四月十八日の夕方その新人候補の一人Dさん夫婦がやってきた。この日カミさんの同級生のお誘いで出水市高尾野町まで夏ミカン狩りに出かけていたのである。何気なく誘いに乗ったけれども道中の会話によれば現職の出水市長の実家だという。みかん畑で農作業をする市長を発見してほんの少しの顔見知りなので「忙しいだろうに畑仕事をする時間があるのか」と問うとコロナ禍の影響で催し事の自粛が多く時に畑に出ると笑っていた。

夏ミカンとかなりの量のコサン竹の子をもらって帰りその皮むきの最中にDさんがやって来て「もう少し足りない」と彼の選挙運動の様子を語る、キバレと励まし出水産のタケノコを少しもたせた。

心中複雑である。

私が加入する花熟里自治会はベテラン議員の一人を推薦している。ここに転居した十七年前から同一人物で自治公民館を選挙事務所としている。その頃から自治公民館を選挙事務所として使用するのに問題はないのかなあ、と漠然と思っていたが自治会推薦があれば合法なのだと誰かが教えてくれた。

そもそもその推薦だけれども、いつも回覧板でお知らせが回る。ついでに出陣式への要請もある。へソ曲りで反体制側に身を置きたがる私はその回覧板を見る度に「俺は推薦した憶えはない!」と思うが大きな声では言わない(笑い)。D候補は隣りの隣りの自治会なのにベテラン議員を推薦している地区の我が家に票の掘り起こしにやってきたのである。

もっとも奥さんがこの地区の出身だという。ややこしい話である。

選挙運動が始まりD候補の選挙カーがやって来て「家内の故郷(ふるさと)、花熟里のためにもがんばります」と叫ぶ。我が家のカミさんは手を振り、私は「故郷ねえ?」と呟く。狭い地域の選挙は気を揉むのである。

選挙のストレスなど愛嬌であろうが昨今のコロナ疲れは相当なものらしい。事実何となく気詰まりで疲れる。内閣府の調査でも7割以上がストレスをため込んでいると六月五日の南日本新聞が報じていた。

そんな折ブツクケースだけが残されていた茨木のり子さんの詩集「自分の感受性くらい」が戻ってきた。昭和52年初版第一刷の年代物である。本を貸すバカ返すバカなどと言うから戻ってくるのは稀有なことである。

 

自分の感受性くらい

ぱさぱさに乾いてゆく心を ひとのせいにはするな

みずから水やりを怠っておいて

気難しくなってきたのを 友人のせいにはするな

しなやかさを失ったのはどちらなのか

苛立つのを 近親のせいにはするな

なにもかも下手だったのはわたくし

初心消えかかるのを 暮しのせいにはするな

そもそもがひよわな志にすぎなかつた

駄目なことの一切を 時代のせいにはするな

わずかに光る尊厳の放棄

自分の感受性ぐらい 自分で守れ

ばかものよ

 

「ばか者よ!」と自分で自分を叱り飛ばしてすっくと立っていたいなあ、と思うけれどもなかなかである。

え!選挙結果ですか?

市長は若手のC候補、市議会議員は自治会推薦のベテラン議員新人のD候補共に当選でした。

令和3年夏季号より

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