『「言葉の純度」が高いとは語り手の「心情」と「言葉」のづれの少なさをいう。言葉は純度が高ければ高いほど人へ伝わりやすいのだ。まったくずれているのを「嘘」(心とまるで違う)という。政治家の皆さ~ん、純度の高い言葉を使いましよう。』
明日から冷え込むとの天気予報があった11月21日、コタツを用意することにした。
我が家のコタツは少々立派である(笑)。どこが立派かといえば、まず長さである。大人が長々と寝そベることができる。棺桶を想像してもらえばいい。そう、入棺の練習に使える。
つぎにコタツ板がすばらしい。椨の古木を縦に製材した長さ 210cm、横幅100cm、厚さ8.5cmある。寺の住職が自ら木材市場で落札したふ古木の丸太を製材・研磨してニスまで塗った手造りの逸品である。使い勝手も実にけっこうであるが、如何せん重い。
年2回コタツ布団の着け外しにこの天板を移動しなければならない。
訪問客を待って助力をたのむ手もあるが、そうそう人はうまく訪ねてくれない。過去に一回だけこの作戦に引っかかった人がいたがそれも住職だった。老夫婦には難儀な作業である。今年もどうにか二人でやってのけた。へ口へ口になって作業を終え口をついて出る言葉は「来年もできるかね~」である。
そこで数日前から痛む右上半身というか胸、背中、腋、右上腕を老妻に検分してもらう。すでに赤い発疹もあるようだ。帯状疱疹との見立てで明日土曜皮フ科を受診することに決めた。
坂之上にある皮フ科の院長は一目診るなり「帯状庖疹、間違いありません」と注射一本と飲み薬、塗り薬を処方してもらう。診察してもらう頃には胸、腋の下、背中に水庖がびっしりと目立ち痛い。
昔、ずっと昔、生れ在所ではこの病気を治すのに「タイ祭り」とか称してサビた包丁を使い呪(まじな)い言葉をとなえる古老がいた。この界隈の人によればサビたハサミを使いコトバをとなえながら切る真似をしたという。広辞苑には以下のような記述があった。
「帯状庖疹」
ヘルペスウイルスによる帯状の有痛性発疹。肋間・顔面・座骨部など一定の抹消知覚神経に沿っておこり、小水疱が群生し周囲に赤発を見、所属リンパ節が腫張する。約三週間で消退するが、神経痛を残すことがある。
もし治療をせず「三週間で消退する」のであれば古老の行為をどう考えればいいのか。主治医にさりげなく聞いたら「若い人なら多分治るでしよう」とのことであった。もっとも痛みに耐えられるかが問題ではある。
おっと、こんな下世話なこと語っている時ではなかった。令和2年の出来事、印象みたいなものを書き記(しる)して置きたいのである。とはいっても今年は新型コロナウイルスー色で明け暮れた。皮肉を言えばアベノマスクで始まって学術会議新会員候補6人の任命拒否で終った。あらっという間の首相交代劇でもあった。
ここまで筆が進んだところで12月4日の南日本新聞のひろば欄でおもしろい文章に出会った。『安倍政権表す一字は「虚」だった』のタイトルで『今年の新語・流行語大賞は「3密」だったが、政界の「3(秘)密」は「モリ」「カケ」「桜」だ。中心軸は安倍晋三前首相だが、密室、密会、密約、密談を加えると「7密」になる。密度の濃い説明があれば「8密(ハチミツ)だったが、世の中そんなに甘くない。後略』
笑った!
投稿者の言のごとく安倍政権の終盤はスッキリしない感じが残ったまゝである。それに続く菅首相の日本学術会議新会員候補6人の任命拒否の理由が「総合的・俯瞰的」立場から判断したというような言い回しで回答としてはおそまつであった。
この言い逃れ的な政界での問答を見聞きするたびに思うことがある。
そもそも言葉に対する姿勢がよろしくない。敬意が足りない。言葉をなめている【お~、この高飛車な物言い、上から目線】。
もっと言えば言葉の純度が低い。「言葉の純度」が高いとは語り手の「心情」と「言葉」のづれの少なさをいう。言葉は純度が高ければ高いほど人へ伝わりやすいのだ。
まったくずれているのを「嘘」[心とまるで違う]という。
言葉は意味だけでなく香りや寒暖、肌ざわりも伝える。
人が人の言葉に感動するのは、その意味によってではなく、その言葉に乗せられ包まれているある種の波動[響き]である。
言葉は意味を伝える道具ではない。中国の「天」西洋の「神」に匹敵する何かである。
政治を糺(ただ)し世を正すのは言葉である。
政治家の皆さ~ん、純度の高い言葉を使いましよう【なんという高慢さ!】
ともかくも あなた任せの 年の暮 一茶
令和3年冬季号より