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季刊誌「せおと」-fileNo.72-このよは自分をさがしに来たところ このよは自分を見に来たところ

fileNo.72このよは自分をさがしに来たところ このよは自分を見に来たところ

【後生(ごしょう)の一大事】この自分は社会の中の自分ではなく宇宙の中の自分なのではないか。この自分探しは自分の力だけでは無理なのだと先達は教える。そこに宗教の出番があると思うのである。仏教は葬儀のためだけのものではなく生きる者の今を支える力がある。

 

ほんとうに暑かった夏がほんの少し涼しくなった八月二十九日の朝、あまりにも繁った前庭の雑草を意を決して陽が昇るまでの短時間抜いた。そんな日の午後美樹園事務職Aさんのご主人の訃報が届いた。

通夜式は午後五時、葬儀は翌日の午後二時との連絡であった。暑さ、体力を考えて通夜式の参列で勘弁してもらうことにする。

通夜式の最後はお坊さんのご法話で締めくくられるのが通例であるが、この夜も浄土真宗西本願寺派の方で「人は死ぬのではない仏になる」とか「浄土・往生」の言葉が続く。いつも思うことだけれどもこの「仏・浄土・往生」が参列者にどう伝わっているのか、仏教徒としては気になるところである。

大峯顕の著書「蓮如のラディカリズム」に次のような件(くだり)がある。

「仏教とはどういう教えかというと、まず第一に仏さま【釈尊】の説かれた教えである。二番目に仏さま【仏法】について説かれた教えである。三番目は仏になる教えである。」

通夜式での「人は死ぬのではなく仏になる」は三番目の教えであろう。

では人はただ死ぬだけで何もしなくていいのかと言えばそういうわけでもない(笑)。

仏になる道は宗派で少々異なるが浄土真宗では生前「阿弥陀仏の本願を信じて念仏すれば仏になる」と教えられる。時折新聞の死亡広告に「往生の素懐を遂げられた」とあるがこの往生と仏になるはほぼ同義語である。

そもそも「仏になる」とはいかなることなのか。

先程の「往生の素懐」とは仏を信じて現世を終る時に極楽浄土に生れたいという平素からの願いということになる。その極楽浄土に生れることが仏になることであり往生したということになる。

仏(ぶつ)とはブッダ(仏陀)の略でサンスクリット語の意訳といわれるがその意味するところは広くて深い。覚者とも訳され真理に目醒めた人のことらしい。

では真理に目醒めたとはどういう状態を指すのか。

「本当の人間」になるという人もあれは「人間であって人間に縛られない時が覚りの姿である」と表現する先達もいる。

その仏【覚者】になるための道のりが仏教界は二つに分れる。一つは生きている内に仏になる道と二つ目は死と同時という道である。前者を自力聖道門、後者を他力浄土門と称する。自力他力という言葉が示すように聖道門は戒律を守り修業精進して覚者を目指すが誰もが到達できる道ではなく、ごく少数のエリートの道と言われる。もし仏への道がこの一本だけだとすれば大多数の人には道が閉ざされ仏にはなれない。

そこで法然さん【親鸞さんの師匠】が開かれたもうひとつの道が他力道である。阿弥陀仏の本願を信じて念仏するだけで仏になると説かれたのである。やさしい道なので易行(いぎょう)道とも称される。

今の日本の宗派で分ければ自力門は天台宗、真言宗、禅宗【三派】等で他力門は浄土宗系、浄土真宗系等である。

近年新宗教や新々宗教のえげつない勧誘等で現代人が宗教という言葉に辟易(へきえき)しているのは残念であるが宗教のもつ意味、大事さみたいなものを語りたい。

そもそも私【我々】は何故に人に生れてきたのか。私が意志したことではない。自分の誕生を企図とした記憶はない、ないけれども気が付いたら存在していた。そうして親に大事に育てられ成長して結婚し子を成(な)し楽しい家庭【社会】生活をおくり老いて病を得て亡くなりました、めでたし、めでたしで終れない何かがある。

それが河井寛次郎の「此世(このよ)は自分をさがしに来たところ 此世は自分を見に来たところ」なのだ。

この自分は社会の中の自分ではなく宇宙の中の自分なのではないか。この自分探しは自分の力だけでは無理なのだと先達は教える。そこに宗教の出番があると思うのである。宗教【仏教】は葬儀のためだけのものではなく生きる者の今を支える力がある。飛躍するが人は仏になるために生れてきたのである。

通夜式会場から駐車場への道々で理事長「若い頃と違いこの頃死が身近になった」と語られたので「私なんぞ棺桶を担いで歩いてます」と答えて笑った。

家に戻ると妻が喪主Aさんのあいさつ文がとてもいいと言う。『前略~ずっと頑張ってきた夫に伝えたいのは「ご苦労さまの一言です」~後略』とあった。

夫を見送られたAさんに「ご苦労さまでした」とお伝えしたい。

令和5年秋季号より

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