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季刊誌「せおと」-fileNo.016-「心豊かに育てよう!」 どうやって?

fileNo.016「心豊かに育てよう!」 どうやって?

『言葉の深み』 家内が聞いてきた話しである。ある知人の家に電話があった。「ガス屋ですか」と言うので「いいえ」と切った。間違い電話である。知人はガス屋さんではない。更に数時間して「ガス屋ですか」と再び電話があったという。もちろん違うと切ったのであるが、その奥さんは「せめてガス屋さんと言ってよね」と呟いたという。この話しを聞いて私は、この奥さんの言語感覚に何かほっこりするものを感じた。やたら「さん」をつければいいものでもないが、面と向って散髪屋ですか、八百屋ですかもあるま
い。少年期の頃、学校の先生達から「言葉の乱れは心の乱れ」と説かれ、ずい分反発した記憶がある。なに言葉はことばさ、ただの意思伝達の道具であって、その以上のものであるまい、とどこかそんな思いがあったのかもしれない。今は違う。言葉は道具などではない。自分の思いを整えてくれるのである。

考えて言葉にするのではなく、言葉で考えるのである。言葉が道具だという意識は、どこかに確固たる自分があって、それが自在に言葉を操っている感覚だろうか。つまり自分と言葉は別物である、という一種の二元論と言っていい。だから「私は言葉は悪いが、根はいい人間です」などと言い出すのである。果してそうなのだろうか。私は「言葉がその人である」という説をとりたい。優しい人だから優しい言葉が出てくるのではなく、優しい物言いができるから優しい人なのである。きつい物言いをする人がきつい人なのだ。ことの順逆を取り違えてはならない。私は優しい言葉や丁寧な言葉だけで語れと言っているわけではない。厳しい言葉、きつい言葉で伝えなければならない時もある。ただ言葉に対して自覚的でありたい。そのことが自分自身を修訂正していける近道と思えるからである。冒頭の逸話はそのあたりのことを伝えたかったのである。

キリスト教の新約聖書、ヨハネによる福音書の第1章に次の言葉がある。

「はじめに御(み)言葉があった。御言葉は神と共にあった。御言葉は神であった。御言葉ははじめに神と共にあり、万物は御言葉によって創られた。」

私達は確かに家庭・社会の中に生れてきたが、そこは言葉の世界でもあった。言葉が満ち満ちているところに生れ落ちたのである。言葉が先にあった。そこで赤ん坊は言葉を習得していく。赤ん坊の言葉の先生は主に母親である。返事もしない子に繰り返し繰り返し語り続ける。いま「心の時代」などと言われているが、心はどうやって育つのか。目にも見えない心を「豊かに育てよう」と叫ばれても、子育て世代は困ってしまう。「三つ子の魂百まで」とは、その人の一生を律する力、つまり心は三才頃までに育つの意と考えてよいであろう。三才までの児が文字を読むとは思えない。とすれば心は母(実母である必要はないが)の話し言葉で育つ、と考えるのが自然ではなかろうか。赤ん坊はネコという言葉の意味を教わらないで、猫という意味を体得する。ネコを目の前にして「ほら猫ちゃんよ、可愛いね」と何回も何回も母から聞いて猫が分かるようになる。こどもの心を豊かに育てるには、豊かな気持ちのこもった言葉を話しかけるよりほかに手はなさそうである。情緒が豊かということは、言葉が豊かということと同義語である。ところが言葉はあまりにも身近かであるために、手軽に扱いすぎたのではなかろうか。私達は日常空気(酸素)のことを意識して生きていない。しかし、酸素なしでは一瞬たりとも生きられない。言葉も同じで、言葉なしでは生きられない。ある人は言うかもしれない。あまりの悲しさに言葉にならないこともある、と。けれども「言葉にならない」という言葉で、その悲しさの深さを語っているのである。

良寛さんに「戒語」九十ヶ条というのがある。戒語だから戒(いまし)める言葉の意で、平たく言えば語る時に気をつけたい言葉あるいは態度のことと思われる。むろん他人に向けられた言葉ではなく、自分自身心への戒めとされたのであろう。その中に「すべて言葉をしみじみといふべし」「言葉は惜しみ惜しみいふべし」とある。

言葉は道具ではないと書いたが、正確には日常使用する言葉は、使い勝手のよい道具としての一面もある。しかし、言葉はそれだけではない力をもつ。それが証拠に人は言葉で救われたり、傷ついたり、果てはいのちを断ったりする。心していきたい。

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