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季刊誌「せおと」-fileNo.035-いのちの相(すがた)

fileNo.035いのちの相(すがた)

『いのちの相(すがた)』 昨年の10月初め、電車の踏み切り内に倒れていた老人を助けようと遮断機の下りている中に入り、老人を助けて自分ははねられて亡くなった40歳独身女性が新聞・テレビで話題になった。

後日この女性の父親は(父が運転して彼女は助手席に乗っていたという。)テレビのインタビューに「間に合わない!」と制止したが振りきって飛び込んだと応えていた。

このような事件(他人を助けて本人は亡くなる。)は全国各地で時々起きる。かなり以前東京都内のどこかの駅では、ホームに転落した日本人を助けて亡くなった韓国人男性もいた事を考えると、我が身の危険を顧みず他人を助けようとする行為は、国籍や性別を問わないものらしい。

また、他人を助けようとして共々に亡くなる事件もある。他人を助けて(あるいは助けようとして)本人が亡くなる行為は人の賞讃するところであり、話題となるので世の人の意識にのぼりやすい。さらに他人を助けて本人も無傷で済んだ事件でも時折消防署や警察署が人命救助で表彰するので人の注目するところとなる。

もう一歩踏み込んで想像を逞たくましくすると、他人を助けて本人も無傷で表彰されず、人の口にものぼらなかった事件(?)が数多くあるのではないだろうか。

人間は自分の利益になることしかしないのではないかと思われる世相の中で、自分のいのちを投げ出して他人の為に行動する、その行動の源泉(みなもと)は何なのか(あるいは、どこなのか)今の私には興味深い。自分や自分達の利益になるなら戦争・テロ・人殺しも平気でやってのける人間が、ただ一人の他人の為にいのちを差し出すなんて、私の腑に落ちない。今回はこの真相に迫ってみたい。

推理の糸口として、自分がそのような現場(人命救助を必要とするような状況)に遭遇した場合、どのような動きをするのであろうか。この設問は救助の対象があくまでも見知らぬ他人ということにする。対象が家族であったり、極めて親しい人の場合は動きが違う気がするからである。私は多分足早に現場を立ち去るか、他の人に救助を依頼する。

このように自分を自分で定義(優しいとか臆病者(やっせんぼ)だとか)した自分を第一の自己と呼ぶことにする。第二の自己は他人に見えた(定義された)自分である。第三の自己は人間より上位の存在(?)、神とか仏に見える自分である。もっともこの場合神さま仏さまが喋ってくれないので想像(?)するしかないかもしれない。世間では「自分のことは自分が一番良く知っている。」と言われるが、自分が知っている自分だけが自分の全てではない気がする。また、一人の人間にただ一つの自己ではなく、数限りない自己があるようだ。

自問自答という言葉がある。辞書的意味は自(みずか)ら問い、自ら答えるであるが、最近違う解釈が浮かんできた。

自問の「自」は「自みずから=自分(我)の力」で、先の分類で言えば第一の自己である。自分に見えている自分が発する問いである。自答の「自」は「自(おのず)から=自然(じねん)の力」であり、第三の自己が答えるのである。つまり自分(我)が問うて、自分の中に在(ある)仏(ほとけ)が答えるのである。仏教風に言えば自分(第一の自己)が問うて、阿弥陀仏(第三の自己)が答えるということになる。

前号のせおと(第43号)で命(いのち)と寿(いのち)について述べ「いのち」の二重構造について書かせて頂いた。我々は有限である命と無限の寿の二本立てを生きている。第一の自己とは有限の命であり、第三の自己は無限の寿である。

自問自答に戻れば、自問の自は有限の命であり、自答の自は無限の寿である。命が問うて寿が答える構図になる。

最初に戻りたい。人はなぜ自分のいのちを投げ出してまで他人を助けようとするのか。第一の自己は命であり有限である。有限の自己は有限であるという理由で保身(死にたくない)がはたらく。第三の自己は寿であり無限である。寿は身体なしでも生き続け、無くなることはない。

人が他人の為にいのちを投げ出せるのは寿の面が強くはたらく時なのではないか、命より寿が強いと「無我夢中」の無我、つまり我(有限の自分)を無くして行動するのではないだろうか。人間は自分から何が飛び出してくるか分らない不思議な生き物である。

     『初日出て すこし止まりて 上るなり』  あきら

平成26年冬季号より

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