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季刊誌「せおと」-fileNo.45-ひとの幸・不幸を語る資格が、私たちにはあるのだろうか?

fileNo.45ひとの幸・不幸を語る資格が、私たちにはあるのだろうか?

『ひとの分際(ぶんざい)』 今年の8月は殊更(ことさら)暑かった。その上雨の少なさに庭の草木を見ながら胸が痛む思いであったが、庭に水を撒く財力と体力と気力が無くりゅうのひげをかなり枯らしてしまった。

8月23日夕方6時頃鹿児島市内の所用元から家に帰ろうと外に出ると傘なしでは駐車場に行けない程の激しい雨であった。8月に入ってほとんど雨を見たことがない吹上町の我が家の方を見ると黒い雲で空が覆われている。有り難いと心底思った。ここで降ってもらえれば少なくとも数日水撒きの必要はなく費用も労力も助かる。

夏の夕立だ、すぐ止むだろうと待ったが止む気配がない。貸し出し用の傘で駐車場へ行き引き返して家内を拾い我が家へ向う。伊作峠ももちろん大降り、峠を下り切って国道270号線との交差点も水溜りができている。我が家はもう少し西である。いやな予感というが記憶が蘇った。美樹園勤務の頃、同じような日照り続きで撒水の日々が続いたある日、夕立の中を勇んで帰ると家の三百米手前までしか降っていなかったことが一度ならずあったのだ。

花熟里自治会六班はもっとも海に近く通称潟(がた)と呼ばれて極端に雨が少ないところらしい。おまけに砂地で降ってもすぐ乾く。裏山のヒメヒオウギズイセンも茶色に枯れキンチッダケ(ホウライチク)も葉が縮んでいる。

予感が現実になる。家の三、四百米手前から路面は白く雨の跡はない。空は少し明るいが、まだ雨雲はある。期待を残したまま帰宅する。夕やみの中で庭に目を凝らすとかすかに、如雨露(じょうろ)で水を撒いた程度の雨の跡が見られた。消え残る雨雲にもう少しと欲ったが、この日この後我が家の周辺には一滴も降らなかった。

雨に限らずこの世(あの世も分からないが)は人の望みどおりにはならないことが多い。このことを仏教では「苦」であると表現している。「苦」とは思いどおりならないことである。

歎異抄(たんにしょう)(浄土真宗の宗祖親鸞さんが語られた言葉を弟子の唯円さんが書き残されたとされる本。浄土真宗の門信徒だけでなく多くの人々にも愛読されているという。)の第四条に次のような語りがある。

『慈悲に聖道(しょうどう)・浄土(じょうど)のかはりめあり。聖道の慈悲といふは、ものをあはれみ、かなしみ、はぐくむなり。しかれども、おもふがごとくたすけとぐること、きはめてありがたし。 ~後略~。』

注釈本を駆使して読むと、慈悲には二通りあり、一つは聖道の慈悲、もう一つは浄土の慈悲だという。さらに聖道の慈悲は人間(自力)が考える慈悲で、浄土の慈悲とは仏(他力)の慈悲ということらしい。

慈悲とは人間だけでなく、すべての生き物の(いのち)の運命に対する思いやりのことだという。自分だけの幸せではなく、すべてのいのちに対するいつくしみの心を「慈悲」と呼ぶ。人は多分、自分の周囲で老いであれ病気であれ障害で苦しんでいる人がいれば何とか助けられないものか、と思うであろう。それが聖道の慈悲『もの(いのち)をあはれみ、かなしみ、はぐくむなり。』である。しかし『おもふがごとくたすけとぐること、きはめてありがたし。』と続く。つまり助けるのは極めて難しいとある。

この歎異抄はおよそ七百年前に著されたもので、その間に人類は向上して平均寿命も延びたではないかと言う人もあるかもしれない。確かに医学は進歩し平均寿命も延びた。けれどやっぱり人は病気にもなれば死にもする。『たすけとぐること、きはめてありがたし。』は今も変らない。

まだ記憶に新しいが7月26日神奈川県相模原市の知的障害者施設での殺傷事件の容疑者が「障害者を抹殺することが救済なのに誰もやらない」と言っているらしいが、あまりの傲慢さに驚く。殺すことが助けることだと言っているのだ。その上「職員も家族も不幸だと思い、国のためにもならないと思った」(8月26日南日本新聞)には、お前さんに人の幸不幸を語ってほしくない、と罵(ののし)りたくなる。

が、しかしと立ち止まる。私にもどこか人の幸不幸を論じる心根がある。いのちは比べられないと言いながら比べている自分に出会うことがある。悲しい。

人に人が救えるのか、と時々思う。その度に「聖道の慈悲」の「きはめてありがたし」が頭をよぎる。歎異抄第四条は人間の傲慢さを戒めているのかもしれない。人の分際で人の幸不幸を断じてはならないと。

秋風や はがねとなりし 蜘蛛(くも)の糸  あきら

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