特別養護老人ホーム美樹園 | 社会福祉法人南陽会鹿児島 谷山 老人ホーム 特別養護老人ホーム

季刊誌「せおと」-fileNo.49-急ぐな!! いのちが尊いのは、一度きりの人生だからじゃないよ。

fileNo.49急ぐな!! いのちが尊いのは、一度きりの人生だからじゃないよ。

『生きる覚悟』 九月一日、突然涼しさが訪れた。正確には八月三十一日の夜だが1ヶ月以上続けていた就寝時の冷房を止めることができた。

今年の夏も暑かった。今年もと書いて、去年の夏が思い出された。昨年の夏休みに5歳になった孫娘が4週間近く母親が付添って入院し、残った2人の幼い兄弟の面倒見に疲れた夏だった。秋風は人の気持ちを内向きにするらしい。過ぎし日の夏が思い起された。3歳の夏には大平洋戦争が終った。戦争の記憶はないが、ずっと後で父が戦地から帰ってきたことは微かに残っている。小学生の夏休みは宿題なんかほったらかし、中学の夏は補習をサボって遊び呆けていた。将来を絶望した夏もあった。

九月二日朝、更に涼しかった。今年孫が遊んだ、いや孫と遊んだ夏を片づけた。カーポートに放ったらかした簡易プール、パラソル、浮輪、折畳みのイス・机、75回目の夏を仕舞った。

この時節子供の自殺が多いのだという。統計によれば九月一日が突出して多く、九月二日、八月三十一日が続くらしい。子供の自殺が夏休みの宿題や新学期の始まりなどとどう関係するのか、私にはよく分らないけれども秋の冷気のせいかもと思う。心(身体)の中を吹き抜けてゆく時ふっと何かに触れるのかもしれない。根拠は無い。

誰の言葉だったか「『さとり』というのは、いつ死んでもいいという心境のことかと思っていたが、そうではなくどのような状況に置かれても生きていくという覚悟であった。」を思い浮べている。覚悟の覚も悟も「さとり」である。広辞苑を引く(若者ならスマホだろうなあ―)とさとりとは「つまびらかに知る」とか「物事の道理を明らかに知る」とあり、仏教的には「心の迷いを去って真理を体得する」のようである。

ここまでで筆が止っていたところに集落の82歳になる男性が亡くなったと触れが回り四日夜通夜に参る。祭壇の遺影を見ながら遠からず自分もあそこに行くのかと思ったらなぜか気恥しくなってしまう。坊さんの読経を聞きながら想いは更に拡がる。八万四千巻もあるといわれるお経本、そのお経に縁のある人は一部の学者か僧侶だけであって普通の人が触れる機会は葬儀を含み死者の供養の時だけであろう。それも多分訳の分らないままに耳に届く。勿体無(もったいな)い!と念(おも)う。

お経(仏典)は二千五百年以上も昔インドに生れたお釈迦さまの「さとり」なのである。仏記によればお釈迦さまはインド北西部の小さな王国に王子として生れ、成入した後王位も妻子も全て捨てて山に籠(こも)り「生きる」とはどういうことか「いのち」とは何かを探し求められた人である。人生(生老病死)とは何かをそれこそ命がけで求められたのだ。ブッダ(仏)とは真理に目覚めた人のことであり、釈迦仏とは真理を究めた釈迦族の貴い人の意味で釈尊とも呼ばれる。

その「さとり」を釈尊が弟子や民衆に語られ、そして語り継がれて数百年の後編集されて仏典となる。それが中国で翻訳され日本ヘと届く。従って釈尊の書かれた本は一冊もない。このように仏典を遡(さかのぼ)れば葬儀や先祖供養のためにさとりが開かれた訳でも語り継れたものでもないのが分かる。むしろ生老病死の迷いを超えて往く道、生死(しょうし)の問題解決の手だて、人生の指針としてさとりは開かれ仏典は存在しているのである。

もう少し言わせてもらうが、仏教は釈尊が考え出された教えではなく発見された真理である。その真理の中核を仏典では阿弥陀仏というが、平たく言えば宇宙の用(はたら)き(力・法則)である。我々が自分のいのちと思っているのは、この宇宙の用き(力)によって支えられているのである。生きているということは、我々がいのちを持っているということではなく、宇宙の用きが我々いのちを持っているのだ。我々は「私のいのち」と所有権を主張できない大きな力で生かされている。それは少し思いを巡らせば分かる。心臓も肺も自分の力(意志)で動かしてはいない。

いのちが尊いのは「一度っきり」でも「一っきり」だからでもなく、自分のカでない力で生かされているからである。

だから若者よ(この紙面で訴えることとも思えないが)死に急いではならない!

とは言っても生きる覚悟が要るのは若者だけではない。若者の世話を受けなければ死も迎えられない身になればこの年寄りこそ生きる覚悟がいる。

おしなべて 物をおもはぬ 人にさへ 心をつくる 秋のはつかぜ  西行

お問い合わせ

ご質問やご相談、当法人に関するご質問等ございましたら以下よりお気軽にお問い合わせください。

Action Plan急ぐな!! いのちが尊いのは、一度きりの人生だからじゃないよ。

最新号

アーカイブ

お問い合わせ

ご質問やご相談、当法人に関するご質問等ございましたら以下よりお気軽にお問い合わせください。