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季刊誌「せおと」-fileNo.71-父母未生(ぶもみしょう)以前の命

fileNo.71父母未生(ぶもみしょう)以前の命

『この世に存在する生き物は「命」が着ぐるみを着ているようなものである。正体不明の命が象は象の蟻は蟻の着ぐるみを着て存在している。人もその人なりの着ぐるみなのだ。いづれこの着ぐるみは返納してもとの「命」に戻る。皆同じ命なのである。』

 

太(ふ)て声で 鳴っ時鳥(ちょげさ)から 貰(も)ろ元気    徳留 勝雄

(喝) マッチョンチョゲサ胸底(むなぞ)け響(ひび)っ

があった。マッチョンチョゲサと聞き做(な)す土地があるんだと知った。生れ在所はチョンチョンチョゲザである。それにしてもけたたましい声で鳴く。

この地に住みついて二十年になるが何回目かの自治会六班の班長の当番となった。自治会長から事前連絡があった時夫婦共に後期高齢者を理由に免除を申し出たが「元気ですよ!」と一蹴された(笑)。

過疎地の自治会は会長の引き受け手もままならないらしく悲喜こもごもの噂も聞えてくる。我が自治会は十数年前から順番制を取り入れているらしい【ルールがよく分らないが】。

班長の仕事は月二回(第二、四金曜)の文書配布と年六回【偶数月】の会費徴収である。歩いて回れる距離でありそれほど苦になる作業でもない。

会費徴収も集金袋を郵便受けに放り込んでおくと翌日位には届けてくれるし、会計さんは電話一本で回収に来る。文書配布は宅地に立ち入るのでナントなくその家庭の事情らしきものも垣間見えるのでオモシロイ【悪趣味】。

あ!もう一つの大事な役割が自治会員が亡くなった時、通夜・葬儀の日時場所等の電話連絡である。ひよっとするとこれが一番肝心なことかもしれない(笑)。

コロナ感染が終息へ向う気配の中で寺院の法要も行われるようになった。ちなみに法要と法事の些細などうでもいい違いを記しておきたい。

法要は寺が主催する布教目的の催しで報恩講、永代経法要【年二回】、彼岸法要【春秋】、おいろぼし法要、お盆法要などがある。

法事とは各家庭で営む死者先祖供養で葬儀に始まり三日供養、四十九日、一回忌、三回忌、七回忌と続いていき五十回忌でほぼ終了である。それ以上続く場合もあるが五十年を超すと有縁の者が大方いなくなる(笑)。

私が幼少の頃【そんな頃もあったのだ】は片田舎だったこともあり葬儀も家庭で近隣が手伝う手造りであった。父母の五十回忌もとうに兄が執り行ってくれた。

今年一回目の永代経法要は久々に男性の講師で二日間午前午後の四法座が勤まった。

天高し 大手を振って 無宗教 読人知らず

川柳か俳句かは分らないがの前置きで新聞に掲載されたと講師の紹介である。韓国生れの新興宗教の献金問題や安倍元総理の銃撃事件が相まって世間が騒いでいた頃の作と思われる。

この作者は自分が無宗教であることに胸を張り誇らしげに宣言している。作者はあんなニセ宗教にダマされない賢い人間であると大声で言いたい気分かもしれない。そうかもしれない、宗教を信じて何の得があろう。けれど無宗教が胸を張って宣言するほどのことなのか私には疑問である。

もし宗教の代りに金や財産、社会的地位や親類縁者などを信じ頼りにしているなら同じことである。独りで生れ独りで死に逝く者にとってそれが何ほどの役に立つのか【老人の操り言】。

身体の不調があれば医師へ、心の不調は精神科医かカウンセラーへ足を運ぶように人生を考えるなら宗教【宗派ではなく】の出番があっておかしくはない。この世には人智の及ばぬ世界もある。

講師は続ける。

この世に存在する生き物は「命」が着ぐるみを着ているようなものである。

正体不明の命が象は象の蟻は蟻の着ぐるみを着て存在している。人もその人なりの着ぐるみなのだ。

いづれこの着ぐるみは返納してもとの「命」に戻る。皆同じ命なのである。

私は滅びるが命は永遠に続く。無量寿という。

私は母から生れる時この着ぐるみを着せられたのだ。母の仕業ではない。もちろん父の仕業でもない。

私にこの着ぐるみを着せたのは誰だ?

講師日(いわ)く 「私ももっとましな着ぐるみがよかったと思う時があった【ドッと笑う】。けれどイケメンに生れたらキッと女性で失敗したであろう」。誰かが言うに講師の顔はどこにでもある顔、すぐ忘れてしまう顔らしい【失礼!】。

着ぐるみの中の命は限りなく謎である。

令和5年夏季号より

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