特別養護老人ホーム美樹園 | 社会福祉法人南陽会鹿児島 谷山 老人ホーム 特別養護老人ホーム

季刊誌「せおと」-fileNo.028-花が咲き草木が芽ぶくのを見て、見えない「春」を感じる。

fileNo.028花が咲き草木が芽ぶくのを見て、見えない「春」を感じる。

『花びらは散っても』 3月2日、雨時おり雷。

やや西よりに開いた南側の居間でコタツに入って庭を眺めると、ほぼ中央にしだれ紅梅、左側に庭木用に仕立てられた白梅、その更に左側に八重咲きの椿、その右奥に隣家のやぶ椿があり、左奥に白モクレンの木がある。もう一度中央に戻るとしだれ紅梅の奥、中仕切りの生垣の向うのスモモ(プラム)がまっ白い花をいっぱいつけている。その真後に花ももの高い木もある。

今日現在、白梅の花は終り、紅梅、スモモ、椿が盛りであるが、八重咲き椿は終わりに近い。紅梅の足元にあるボケは咲き始め、白モクレンは舞台の袖(そで)で出番を待っている感じであり、花ももの蕾(つぼみ)はまだ見えない。

今年の梅は遅いと感じ、語ってもきたけれども、ここに書き並べてみると、椿以外はどの花も遅かった。新聞紙上では小鳥の姿が少ないとあったが、実感である。ウグイスの声は2月11日初鳴以降聞こえてくるが、メジロの姿はほとんど見かけない。こんな時異常気象とか観測史上初めてとか言われるが、人が記録として残した歳月など、たかがそこ何十年かでそれこそたかがしれている。

ずい分昔の笑い話に「雪が解けたら何になるか」の問いに「水になる」が正解で、「春になる」は不正解である、というのがあった。「水になる」のが科学的な答えなんだそうだ。「春になる」のは非科学的で間違いだと言うのだろうか。だとすれば「人が死んだら何になる」の問いに「無になる」が科学的正解で「星なる」とか「仏になる」は非科学的でバカバカしいことなのだろうか。

もうすぐ春のお彼岸である。彼岸に限らずお盆も正月も人は競うように墓参りに行く。人が亡くなって「無になる」のであれば、あの墓参りは何なのだろう。墓前で手を合せて何を祈っているのか。亡くなった人の行く末の安穏か、それとも生きている自分への加護か。いずれにせよ「死ねば無になる」が心底信じられているのであれば、墓前で手なんか合せまい。ましてや何を祈るのか。

 余談であるが「いのる(祈る)」が気になって広辞苑を引いてみた。3つの意味が羅列してあって、『①神や仏の名を呼び、幸いを請い願う。祈願する。➁心から望む、希望する。念ずる。➂(相手や物事に)わざわいが起るよう祈願する。のろう。』とあった。③の「のろう」に至っては少々驚いてしまった。仏教でも確かに仏の名[南無阿弥陀仏(ナムアミダブツ)は仏の名である]を呼び祈願するが、浄土系仏教においては、幸いを請い願うことはない。では、何故に名を呼ぶのか。感謝である。今、ここに在ることへの感謝である。豊かであるとか健康であるとかのありようへの感謝ではない。ただ、「いのちを頂いて在る」ことへの感謝である。人生とは、生きているとは水平への拡がり(つまり、ながさ)ではなく、「いま、ここ」の深さではないだろうか。自分が努力して経験を重ね、年を重ねて生きてきたように思うけれども「いのち」のレベルでは一瞬一瞬が大いなるものの力(仏教では他力と呼ぶ)によって生かされているだけである。その他力(本願力とも言う)への感謝である。

真宗学者というか思想家として著名な金子大榮師の言葉に「花びらは散っても花は散らない。形は滅びても人は死なぬ。永遠は現在の深みにありて未来にかがやき、常駐は生死の彼岸にありて生死を照らす光となる。略」というのがある。人が墓まいりをするのはこのこと「形は滅びても人は死なぬ。」を知っているからである。人は死んだら無になるなどと決して信じていない。父母を亡くし、子を亡くし、親しい人を送った人なら、なお一層はっきりするであろうが、亡くなった親が子が語りかけたり、こちらの問いに応えたりする経験があるであろう。歴史上(過去の)人物から学べるのも同じことである。

近頃のテレビコマーシャルに「心は見えないが、心づかいは見える」がある。考えれば「いのち」も「春」もそのものは見えない。生きているものに接して「いのち」を感じ、花が咲き草木が芽ぶくのを見て「春」が身近かになる。この世は見えないもの、聴こえないものによって支えられている。それを昔の人は「おかげさまで!」と感謝したのであろう。

今年もどうやら桜の花に迎えられそうです。有難く、うれしいことです。


  『どこからか 揺れはじめたる 桜かな』  あきら

お問い合わせ

ご質問やご相談、当法人に関するご質問等ございましたら以下よりお気軽にお問い合わせください。

Action Plan花が咲き草木が芽ぶくのを見て、見えない「春」を感じる。

最新号

アーカイブ

お問い合わせ

ご質問やご相談、当法人に関するご質問等ございましたら以下よりお気軽にお問い合わせください。