特別養護老人ホーム美樹園 | 社会福祉法人南陽会鹿児島 谷山 老人ホーム 特別養護老人ホーム

季刊誌「せおと」-fileNo.009-生き急ぐ毎日に疲れていませんか?

fileNo.009生き急ぐ毎日に疲れていませんか?

『蟪蛄春秋(けいこしゅんじゅう)を識(し)らずの心』

美樹園の朝礼の一コマに【朝のひとこと】というのがある。職員が交代で思うこと、感じていることなどを手短かに語るのである。実におもしろい【オモシロクないものもオモシロい】。
ある朝ペット(犬・猫)のことが語られた後「犬・猫は悩まない」が話題になったことがある。犬・猫はなぜ悩まないのか。私は時間の感覚がないからだと思う。時間とは何かと問われると答えられないが、文字で表すと過去、現在、未来のことを単純に思って頂きたい。彼【犬・猫】らには「いま」【現在】しかないようである。もし、明日を心配する猫がいたらどうなるか。目の前にあるエサを今日は少し食べて、残りを明日のために貯えておこうとするであろう。明日も飼い主が今日と同じようにエサをくれるか心配で夜も眠れないかもしれない。

しかし、我が家の飼い猫【サクラという】を観る限り、貯えたり眠れないような素ぶりはない。腹一杯食べたら満足気に寝ている。おなかが空けば「ニャーニャー」鳴いて催促するか、エサ箱の前にこれ見よがしに座っている。

「蟪蛄春秋を識らず」という言葉がある。 蟪蛄とは蝉のことで、セミは夏に生れ2週間程生きて夏に死ぬという。春秋【春夏秋冬の略】は四季のことであるから、春秋を識らずとは四季を識らないという意味である。つまりセミは夏もしらないということになる。まったく同じ意味において、「いま」しかないものにとっては「いま」も過去も未来もない。猫には未来も過去もない【いや、なさそうである】から悩まずに済むという理屈である。

人はどうであろうか。過ぎし日を懐しがったり、過去の行動を悩んだりするかと思うと明日一年後、十年後を心配してせっせと貯え【預金】たり、まさかの時にと傷害保険だの生命保険だのに加入する。心安まる時がない。人に時間感覚【時間の後先が分かる】が生じるのは十歳前後といわれている。それ故に人が自殺するのはこの年齢以降らしい。つまり自殺とは将来【未来】が想像【予測】できて初めて、その将来を強制終了する。将来に期待できないのである。

時間とは不思議である。時間は人の意識の中で直線的には流れない。行きつ戻りつする。過去の出来事だって変わる。正確に言えば過去の出来事の解釈が変えられるのである。子どもの頃の記憶をたどってほしい。父や母親あるいは教師にひどく叱責され恨みとして残っていたものが、長じてある日フッと「あゝ、このことを教えたかったのだ」と得心し、感謝へと変わったりすることがないだろうか。諸々の出来事は個人【私】の成長と共に成熟していく。熟成するには時間が必要なのである。昨今の経済発展は、人を待てなくしてしまった。人は金を払うとすぐ物が手に入る生活になれてしまい、種を播いて収穫を待つなどということができなくなり気短かになった。このような経済活動の影響を受け、子育てまでも待てなくなってしまったのではないだろうか。待てない親が子を虐待し、待てない社会に子はイラつき、いじめに走り、自殺へつながったりしていないだろうか。
「棺を覆うて定まる」と言われるくらい、死んだ時になってはじめてその人の真価がわかる。こたえを出し急いではならない。

仏教でも「いま、ここ」が大事と説く。この「いま」には過去も未来も含まれる。ながいながい過去の歴史の上に「いま」があり、遠い遠い未来への歩みとなる「いま」である。「いま」というこの一瞬が永遠ではなかろうか。そんないのちを頂いて、私は「いま、ここ」に在る。

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